変形性股関節症とは
変形性股関節症とは
変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減ったりささくれ立ってしまい、股関節の痛みや動かしにくさ(可動域制限)、足を引きずる歩行(跛行)などが出現する病気です。
加齢や関節の使い過ぎなどの原因の1次性変形性股関節症と他の病気が原因の二次性変形性股関節症の2つに大別されます。日本では二次性の変形性股関節症が多いと言われており、40~50歳代以降に発症することが多く、特に女性に多い病気です。
初期症状として、立ち上がりや歩きはじめでの股関節の痛みが挙げられ、進行すると、階段昇降に支障をきたしたり、夜間痛(就寝時の痛み)が出てきたりします。変形が強度の場合、左右の脚の長さが違ってくることもあります。
日常生活では、足の爪切りがやりにくくなったり、靴下が履きにくくなったり、しゃがみ込むことが難しくなり和式トイレの使用や正座が困難になります。また長い時間立ったり歩いたりすることがつらくなりますので、台所作業などの家事動作に支障を来たします。階段や車・バスの乗り降りも手すりが必要になる場合もあります。
変形性股関節症の発症しやすい人の特徴
重量物作業や長時間の立ち仕事がある職業、寛骨臼形成不全や発育性股関節形成不全といった先天性の既往、肥満などが挙げられます。
2次性の変形性股関節症の主な原因疾患
- 先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全)
- 股関節臼蓋形成不全
- 関節リウマチ
- 外傷(骨盤の骨折、大腿骨頸部骨折など)
※先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全)
先天的な因子や出生後の姿勢や動作といった習慣により、生まれる前から、または生まれた後に大腿骨(太ももの骨)が脱臼してしまう病気のことです。
※股関節臼蓋形成不全
骨盤の臼蓋(股関節の屋根にあたる部分で、通常は大腿骨(太ももの骨)を覆うような形をしている)が不完全なために、大腿の骨頭(太ももの骨の先端にある球状の部分)をうまく支えられていない状態を指します。幼少期に何らかの股関節の病気や怪我があると股関節の発育は不良になり生じることもありますが、遺伝性の場合や、原因の明らかでない場合もあります。
変形性股関節症患者に多い姿勢
一次性の股関節症と二次性の股関節症で多い姿勢が異なります。そのためリハビリなどの運動療法もあったものがことなります。
一次性股関節症に多い姿勢

加齢などにともない体幹や股関節の筋力が低下し、猫背となり骨盤が後ろに傾くことで股関節の被りが浅くなり変形に繋がります。その結果、腰は本来のS字カーブが減少することもあります。
二次性股関節症に多い姿勢

生まれつき股関節の被りが浅いと腰を反り、骨盤を前に倒すことで股関節の被りを深くするように補う姿勢が多い。その結果腰の動きが硬くなることもあります。
痛みの原因
主な痛みの原因は軟骨がすり減った結果起こる炎症や、長期化した痛みによる痛覚過敏、前述の悪い姿勢による股関節への負担増加や、股関節をかばう動き方などで周囲の筋肉や靭帯といった別の組織に負担が集中することなどが挙げられます。
検査や診断
診察で症状(股関節の痛みや動きの制限等)が見られた場合、レントゲンで骨の変形や関節の隙間の狭さを確認し、診断をします。レントゲンで十分な情報が得られない場合にはCTやMRIでより詳しく調べることもあります。
保存治療(手術以外の治療)
薬物療法
炎症を抑える痛み止めを内服し、痛みを抑えます。
湿布や塗り薬などの外用薬も併用する場合もあります。
代表的な薬
- ロキソニン®
- ボルタレン®
- カロナール®
- トラマール
- ワントラム など
注射
関節の動きを円滑にするヒアルロン酸や炎症を抑えるステロイドなどを関節内に注射します。
リハビリ
ストレッチや筋力トレーニングなどを行い、筋力が落ちたり、可動域が制限されて動かしづらくなった股関節の機能を改善させます。
軽度の変形性股関節症はリハビリで症状の改善がみられることがあり、症状の悪化を予防するためにも重要です。また、手術を受けることになってもリハビリによって機能を高めておくことは術後の回復に大変有効です。
筋力訓練
股関節周囲の筋肉に加え、体幹などの筋肉を鍛えて、股関節の機能を改善します。
股関節にかかる負担を減らすには、お尻周囲の筋力(大殿筋・中殿筋)が特に重要とされています。
可動域訓練
変形性股関節症が進行すると、股関節が硬くなることから、しゃがみ込んだり、靴下を履く・爪を切るといった動作が難しくなってきます。適切に関節を動かしたりストレッチなどを行うことで、可動域の維持改善を狙います。
生活指導
主に体重管理・杖などの補助具の使用や指導・生活様式の変更など、股関節にやさしい生活の提案などを行います。

リハビリは継続することが何より大切です。「自宅での運動は長続きしない」「どんな運動をしてよいかわからない」といった場合は、リハビリテーションに通うことを検討してみましょう。
手術療法
人工股関節全置換術(THA)
その名の通り股関節を人工の物に取り替えてしまう手術で、国内外で非常に広く行われています。股関節の変形に由来する痛みに対して非常に有効で、変形性股関節症や大腿骨頭壊死、関節リウマチなどで股関節の変形が進行し、内服やリハビリといった保存療法で十分な効果が得られなくなった場合に検討されます。

術後は、しゃがみ込んだりなど股関節を大きく動かす動作を避ける必要はありますが、手術翌日から歩くことが可能となるなど、大きな制限なく生活することが可能で、1~2週間程度で退院となります。
人工股関節置換術の有名な術後リスクとして「人工関節の脱臼」があり、股関節を捻ったりした際などに人工関節が外れてしまう状態を指します。
従来はお尻側から手術を行うことが一般的で、2~5%程度の術後脱臼率がありましたが、昨今では前側から手術を行う(前方アプローチ)ことにより脱臼のリスクを大幅に低減することができるようになりました。当院では脱臼する確率が限りなく低い「前方アプローチ」を取り入れています。
術後は、サッカーやバスケットといった激しい動きを伴うスポーツなどは避ける必要がありますが、ゴルフや水泳、卓球などのスポーツは多くの場合術後2か月後程度から行うことが可能となります。

人工関節置換術後のリハビリ
手術後は傷口の状態などに応じたリハビリを行います。
入院期間は1~2週間程度ですが、必要に応じて退院後も通院して定期的にリハビリを行います。