肩関節周囲炎(五十肩・拘縮肩)

肩関節周囲炎

肩関節周囲炎

肩関節周囲炎とは、肩関節を構成する組織に炎症が起き、痛みを引き起こす病気で、一般に四十肩や五十肩と呼ばれるものです。
進行すると、寝られないほどの痛みや、腕が挙がらなくなったりなどの症状が現れます。

肩関節周囲炎の症状

肩関節周囲炎では、肩から腕にかけての痛みや、腕が挙がらないといった症状が現れます。
程度によって症状の強さは様々ですが、夜寝られないほどの痛みを訴える患者さんもいらっしゃいます。また、発症からある程度期間が経つと関節が固まってきてしまう「拘縮」と呼ばれる状態になることもあります。

肩関節周囲炎の多くは炎症期→拘縮期(凍結期)→回復期という経過を辿ると言われています。

炎症期は比較的強い痛みが特徴です。腕を挙げたり捻ったりなどの動きで痛みを感じるほか、夜寝られないほどの痛みや、じっとしていても痛いなどの症状を訴えることもあります。
短い人で数日から数週間、長ければ数カ月にわたって強い痛みが続くこともあり、特に就寝時の痛みが強い場合、満足に睡眠をとることができず、憔悴してしまうこともあります。

炎症期
関節組織に炎症が起こる

拘縮期(凍結期)と呼ばれる時期に入ると、炎症期の痛みが少し落ち着いてきます。
炎症期に起こる炎症によって、肩関節の組織(主に関節包と呼ばれる肩関節を包んでいる袋)が硬くなり、動きが悪くなっていきます。腕が90°程度も挙がらなくなってしまうこともざらにあり、「前へならえ」の姿勢さえできなくなることがあります。この時期は痛みが徐々に落ち着いてくる反面、頭を洗ったり服を着たりすることが難しくなったりなどで生活に大きな支障が出ることが特徴です。

拘縮
動きが悪くなる拘縮期

関節の動きが悪くなることを「拘縮」と呼びますが、凍りついてしまったように動かなくなることもあることから「凍結期」などと呼ばれることもあります。また、拘縮によって満足に動かすことができなくなった状態は「拘縮肩」や「凍結肩」などと呼ばれます。
炎症期が短く、軽度で終わった場合は大きな拘縮が起こることなく改善することもありますが、炎症期が重く長かった人ほど、拘縮も重度になりやすいと考えられます。痛みは少なくとも動きが中々改善してこない時期で、個人差も大きいですが、こちらも数週間~数カ月ほど続くと言われています。

回復期に入ると、拘縮が目に見えて改善し始めます。

これまでの痛みや動きの悪さが嘘のように短期間で改善してしまう患者さんもいらっしゃいますが、多くは数カ月程度でほとんど生活に支障がない程度まで改善していきます。

肩関節周囲炎の多くは、特別な治療を行わなくても改善する予後の大変良い病気ですが、発症から完治に至るまで、長い場合1年以上の期間がかかることもある厄介な病気とも言えます。また、力を入れても自分の力で腕を挙げられない場合などは、腱板という組織が断裂している可能性もありますので、注意が必要です。

肩関節周囲炎の原因

肩関節周囲炎の原因は、あまりはっきりわかっていません。
重い物を持ったり、腕を捻ってしまったなどの出来事をきっかけに発症することが多いですが、特にきっかけなどが思い当たらないという患者さんも多くいらっしゃいます。

肩関節周囲炎の治療

保存療法(手術以外の治療)

肩関節周囲炎は前述の「炎症期」「拘縮期」「回復期」の、どの時期に当たるかで治療方針が異なります。

炎症期では、注射や投薬によって炎症を抑えることが最優先となります。炎症を抑える薬(ロキソニン®など)を内服したり、ステロイドなどの炎症を強く抑える薬を注射したりして症状の経過を見ます。
この時期に、「固まってしまわないように...」と無理に動かしてしまうと中々炎症が治まらず、かえって長引かせてしまうことがあることから、積極的に動かすようなリハビリを行うことは避けることが推奨されます。この時期のリハビリでは筋肉の緊張をほぐしたり、電気を当てるなどして、痛みを抑えることを優先に進めます。

拘縮期
動きが悪くなる拘縮期

拘縮期に入り、痛みがある程度落ち着きを見せてきたら、積極的に動かすようなリハビリを開始します。筋肉の緊張をほぐしたり、筋肉を鍛えたりすることで症状や可動域の改善を図ります。また、リハビリが最大限に効果を発揮するためには、病院で理学療法士と行うリハビリだけでなく、自宅でも体操等を行う必要があります。
痛み止めの内服や注射は、痛みの程度に応じて終了することも多いですが、状況に応じてヒアルロン酸などの動きを改善させるような注射を行うことがあります。

回復期では拘縮期と同様、リハビリを中心に積極的に動かしていくことで拘縮の改善を目指します。日常生活でもできるだけしっかり使ってあげることで、回復を加速させることができます。回復期に至っても、拘縮の改善が思わしくない場合などには、手術が検討されることがあります。

手術療法

拘縮があまりに長引く場合や改善が思わしくない場合には手術を行います。
手術は大きく二つに分けられます。

徒手的肩関節授動術(非観血的肩関節授動術)

手術とは言ってもメスなどを使って身体を切ることのない手術で、手術室に移動することなく診察室で行うことが可能です。

拘縮が進んだ肩関節周囲炎では、関節包と呼ばれる関節に袋が周りと癒着を起こしたりなどして、動きが制限されています。そこで、麻酔薬を肩に向かう神経の周りに注入して局所麻酔をかけ、痛みを感じなくなったところで医師が肩関節を大きく何度も動かします。それにより、肩関節包の癒着が剥がれ、徐々に関節が柔らかく動くようになっていきます。ある程度動きを取り戻したところで痛み止めを関節内に注射して終了です。

日帰りで行うことが可能で、メスなどを使用せず局所麻酔で行うことから、比較的手軽でリスクもほとんどなく、痛みや拘縮に対して大きな効果が見込める手術です。

骨粗しょう症などで、骨が脆くなっている場合などは、術中の骨折リスクがあることから手術を行わないか、下記の鏡視下関節授動術を選択することがあります。

鏡視下肩関節授動術

皮膚に複数個所、数㎜~1cm程度の切開を行い関節鏡と呼ばれる小さなカメラや手術器具を挿入して行う手術です。拘縮し、硬くなった関節を包む袋である関節包の一部分を切り取り関節の動きを改善します。術後は関節が硬くならないようにリハビリを行います。

10日程度の入院で、実際の手術時間は1~2時間程度、全身麻酔で手術を行います。
上記の徒手的肩関節授動術に比べて、骨粗しょう症を患っていたりする場合でも手術を行うことが可能です。