手術・治療SURGERY AND TREATMENT

肩関節脱臼(関節唇損傷)

肩関節唇損傷とは

肩関節唇とは

肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節です。
関節唇とは、肩甲骨と上腕骨のつなぎ目に存在するパッキンのような軟骨状組織のことです。関節唇は肩関節の安定性に大きく関与しており、上腕骨の頭が肩甲骨にしっかりと収まるように働いています。

肩を前から見た図
肩を前から見た図
肩を横から見た図
肩を横から見た図

肩関節唇損傷

そんな肩関節を安定させている関節唇が傷ついてしまうことを「関節唇損傷」と呼びます。
関節唇損傷の症状には、肩の痛み、不安定感、可動域の制限などがあります。
肩関節唇損傷では、ある程度安静にしていると一定期間で痛みなどは改善してくることが多いですが、多くの場合肩を大きく動かしたときに肩が外れてしまいそうな不安感や動きの悪さが残ります。また、肩関節を繋ぐパッキンが壊れてしまっている状態ですから、関節の安定性が著しく低下し、何度も脱臼を繰り返す“反復性肩関節脱臼”という状態になってしまうこともあります。

肩関節を前から見た図
肩関節を前から見た図
肩関節を横から見た図
肩関節を横から見た図

傷ついた関節唇が自然に元通りになることはありませんので、これらの症状の改善には治療には手術が必要になることがあります。

関節唇損傷の診断には、肩を痛めたきっかけや、一定の動かし方をした際の痛み、「コリッ」という音(クリック音)などの情報が重要です。これらから関節唇損傷が疑われた場合にMRI検査を行い、確定診断を行います。

肩関節唇損傷の原因

肩関節唇損傷の原因

投球動作の繰り返しや、脱臼、長期的な使用などによって起こります。
特に脱臼した際に起こる関節唇損傷では、関節唇のみならず周囲の骨組織まで傷ついてしまうこともあり、先述の反復性肩関節脱臼となりやすいと言われています。

肩関節唇損傷の治療

保存療法(手術以外の治療)

発症直後やじっとしていても痛む、痛くて動かすことができない、就寝時の痛みが強い場合などは、炎症が強く起こっている可能性が高いことから、炎症を抑える薬(ロキソニン®など)を内服しながら安静にして症状の経過を見ます。痛みの強さによって、ステロイドなどの痛みを抑える薬を注射したりすることもあります。

痛みがある程度落ち着き、動かせるようになってきたらリハビリを開始します。
リハビリでは、筋肉の緊張をほぐしたり、筋肉を鍛えたりすることで症状や可動域の改善を図ります。特にインナーマッスルと呼ばれる複数の筋肉は、肩関節の安定性に重要と言われているため、これらを中心にエクササイズを行います。

また、リハビリは拘縮(固まってしまい動かなくなる)や筋力低下の予防にも効果があります。最大限効果を発揮するためには、病院で理学療法士と行うリハビリだけでなく、自宅でも体操等を行う必要があります。

手術療法

重症例、脱臼を繰り返してしまう場合、脱臼の危険性が高いスポーツや仕事に復帰する場合、リハビリ等で改善が見込めない場合等は手術を検討します。

関節鏡視下肩関節唇修復術

バンカート法

脱臼などに伴い、関節唇が裂けて肩甲骨から剥がれてしまった状態をバンカート損傷と言い、それを修復する手術をバンカート法と呼びます。
関節鏡と呼ばれる小型カメラを肩関節に挿入して、傷ついてしまった関節唇を元の位置に縫い合わせます。

正常な肩関節
脱臼した肩関節
バンカート法

手術は全身麻酔で行われ、皮膚に2~4か所、1cm程度の切開を行い、関節鏡や手術器具を挿入して行います。アンカーと呼ばれる糸の付いたビスを打ち込み、関節唇をアンカーに縫合します。関節唇がささくれてしまっている場合などは、合わせてその部分を切除します。通常、挿入したアンカーを抜去する必要はありません。

ブリストウ法

バンカート法だけでは十分な安定性が確保できない場合や、手術後に再び脱臼をしてしまった場合などはブリストウ法と呼ばれる、より強固に関節唇を縫合する手術を行うことがあります。ブリストウ法では、肩甲骨の一部を移植し、より強固に関節唇を縫合します。

バンカート法+ブリストウ法

レンプリサージ法

肩関節を脱臼した際に、前述のように関節唇が損傷するだけでなく、上腕骨側に陥没骨折(Hill-Sachs病変)を認めることがあります。その場合、レンプリサージ法と呼ばれる上腕骨側に対する手術をバンカート法に合わせて行うこともあります。

脱臼時に上腕骨が陥没骨折を起こすHill-Sachs病変
バンカート法+レンプリサージ法

術後の経過

入院期間は数日~10日程度で、術後2~3週間程度はバンドで肩関節を固定します。
手術後1ヶ月で腕を90°程挙上(前ならえの状態)することができるようになり、2~3か月で軽作業が可能となります。スポーツへの復帰は概ね6カ月程度かかります。
挿入したアンカーが緩んでしまう可能性があるため、術後初期は腕を動かすようなリハビリは避け、手などの筋力低下等を予防することを中心に行います。ある程度手術した部位が安定してきたら、関節を動かすようにし、固くなってしまうこと(拘縮)を防ぎます。
退院後も、必要に応じてリハビリ通院を行い機能低下の予防や回復に努めます。